• INTERVIEW

ブランド豚 “ゆめの大地” を世界に。 -北海道、北の大地から世界への飽くなき挑戦。

ブランド豚 “ゆめの大地” を世界に。

Interviewee

出田 純治

IZUTA Junji

エスフーズ株式会社 取締役国内ポーク事業部長 兼
株式会社日高食肉センター 代表取締役
株式会社北海道中央牧場 代表取締役
エスフーズ北海道株式会社 代表取締役

札幌から約2時間、千歳空港から約1時間、北海道中央の南部に突き出た襟裳岬(えりもみさき)に向かうと、ちょうど中間あたりに新冠(にいかっぷ)町がある。
日高山脈から新冠川が流れ、その流域には競走馬サラブレットを育てる牧場と広大な牧草地が広がっている。

えりも岬まで続く海沿いの国道を左に折れ、車窓に牧草地を眺めながら緩やかな上り坂を上ると、小高い丘の上に株式会社日高食肉センターの白い建物が見えてくる。眼下には太平洋を望む。

新工場を2023年にオープン

日高食肉センターは2023年の春、第二工場を竣工した。
「日本の、しかも北海道産の農産物は、海外では安心・安全の代名詞のようなものです。私たちは先人が培ったこのブランド力をしっかりと守り、増加する海外需要に応えるべく、新しい工場を建設しました」。そう出田社長は説明する。

「新しい工場は、工夫を凝らした最新式の設備を備え、当地で培った職人の手技が存分に発揮できるように作られています。海外を含むより多くの皆様に、弊社の製品を楽しんで頂きたいと考えています」と、意気込みを教えてくれた。

成熟した日本市場で鍛えられた農産物は味も良く、安全に配慮されている。だから日本産の農産物は海外で非常に人気が高い。
日高食肉センターも、FSSC22000を取り入れて食品に対する衛生管理を行い、その元となる農場においてはISOを取り入れ、管理をしっかり行うことで健康な豚を生産している。
そうした現場の努力、企業の工夫と、日本政府の海外への積極的な輸出拡大策、それら、官民一体となった取り組みが徐々に実を結びつつある。

Point

日高食肉流通センター第2カット工場は、日高食肉センターの新工場として、2023年4月18日に、北海道新冠町に竣工しました。
延床面積4,300㎡強の施設に、人の手による加工と機械による自動処理を融合させた、より効率的な生産ラインが構築され、日産800頭、第一工場を合わせると約2,000頭を可能にしています。

ブランド牛で培った独自のノウ・ハウを下地に味を追求

食肉の製造、加工・販売を手掛ける食肉総合大手の株式会社エスフーズ。主力取扱商品の「こてっちゃん」はテレビCMでも見かけ、多くの方に親しまれている。全国各地に牛の牧場を配し、神戸牛や松阪牛などをはじめとした牛肉を国内外に生産・加工・販売している。
その傘下で北海道産ブランド豚「ゆめの大地」の生産を担うのが株式会社北海道中央牧場と株式会社日高食肉センターだ。両社の代表取締役を務める出田社長は、それらを統括するエスフーズの取締役事業部長でもある。

「弊社は、豚肉については業界内で後発にあたりますが、品種による差別化や餌の研究など、ブランド牛で培った独自のノウ・ハウを下地に、妥協無く追及しています。」

品種へのこだわり

品種へのこだわり

「『ゆめの大地』の一番のこだわりは、四元豚としての掛け合わせです」と出田社長は胸を張る。
日本で消費される豚肉は、3種類の血統から生まれる三元豚の生産量が群を抜き、中でも「ランドレース種、大ヨークシャー種、デュロック種」の掛け合わせが多い。
だが、『ゆめの大地』は、それらの3血統に、日本では「黒豚」として親しまれている「バークシャー」を加えた4品種が掛け合わされている。

「黒豚を加えることで、舌触りの良い上質な甘みのある脂身を実現し、さらに赤身の味に深みを加える事が出来るのです」。

餌へのこだわり

餌へのこだわり

「これと同時に餌についても厳選しています。麦類といも類を多く配合することで、くどくない脂質に仕上げることが出来るのですが、幸いにして北海道は、小麦やじゃがいもといった穀類が豊富に採れる地域です。北海道をイメージした『ゆめの大地』というネーミングは、餌についても北海道の穀類にこだわって提供する事を表しているのです」。

『ゆめの大地』は、「あっさりして食べやすい」、「冷めてもやわらかい」との評価を頂戴する事が多いという。神戸牛等のブランド牛で培った「こだわりの血統」と「こだわりの餌」が、お客様の評価に結びついていると言えるだろう。

「安心・安全」な養豚に広大な北海道は欠かせない

ロケーションマップ

「北海道は土地が広大で農場間の距離が確保できます。農場同士が離れている事は防疫的に非常に有利です。使用する薬剤の使用を抑える事が出来、健康で安全な肉を提供しやすいからです」と出田社長は言う。

「防疫」とは伝染病の流行を予防することを指すが、例えば、限られた土地に農場が並んでいる場合、そのうちのひとつで伝染性の疫病が発生すると、隣接する豚舎や農場に飛び火するリスクがある。
その点、北海道はとにかく土地が広大で隣の農場まで数kmという事も珍しくない。農場と農場の距離が離れているのと同時に、豚舎と豚舎の間も距離を離して建設する事が可能になる。そのため、伝染性の疫病がまん延する可能性が低く、予防のための薬剤の使用を抑えることが出来るのだ。

北海道は豚熱の発生確率が低い

防疫の観点から見た北海道の特性として、津軽海峡を境界線にした、動物相の違いが挙げられる。豚はイノシシを家畜化したものなので、野生のイノシシを介して豚に感染症が広まる場合がある。しかし、北海道には野生のイノシシは殆ど存在しない。
出田社長は「未経験者が故に真面目に、そして基本に忠実に作業してくれて、思った以上に良い結果を出してくれています。これだけ規模が大きくなると、個々の技術で何とかなるものでもありません。全員が基本を守る事が大事になってきます」と語る。

「以前は聞いた事がなかったのですが、最近、イノシシが媒介となった豚熱(豚コレラ)の発生が本州で問題となっています」と、出田社長は指摘する。
豚に限らず、野生動物が感染症を媒介してしまうと、その感染症を抑え込む事が難しくなる。
現在、国内で生産される全ての豚肉のうち、海外に輸出できるのは輸出先の政府が認可した北海道と九州の一部地域の豚肉のみ。
「万一、豚熱が発生すると、その地域の豚にはワクチンを接種させなければならなくなります。するとその地域は、海外への輸出が出来なくなってしまうのです」。

イノシシが殆ど居ない北海道は「豚熱」感染のリスクを低く抑える事が出来るので、ワクチン接種の可能性も低く、安心して海外輸出に取り組めるのだ。

Point

日本ではじめて豚熱が確認されたのは1887年と言われています。
その後、1900年代以降も各地で発生と収束を繰り返し、ワクチン接種による撲滅を経て2007年に終息宣言が発表されました。
しかし、2018年に再び本州での発生が確認されて以降、現在も北海道と九州を除く地域でワクチン接種が行われています。

農林水産省
「国内における豚熱の発生状況について」

各国、各地域の基準・需要に合わせて柔軟に

但馬屋
香港で合計12店舗を運営するTAJIMAYA GROUPのしゃぶしゃぶ料理店『但馬屋』。輸出国ではスーパーや飲食店でゆめの大地を味わうことができる。

現在、「ゆめの大地」は、日本国内の他に、香港、タイ、シンガポール、マカオ、ベトナム、ドバイに輸出され、今後も輸出先を増やしていく計画があるという。

「豚肉は世界で最も消費されている食肉で、我々も、その中で選んで頂けるように努力しなければなりません。そのためには味や価格に加え、安心・安全、さらには、各地域の需要特性に合わせた商品作りも重要だと考えています」と、出田社長は語る。

日本食の豚肉料理はスライス肉が主流だが、海外では塊肉での販売が多い。
出田社長は、それらの需要に応えつつ、昨今の日本の食文化への理解の高まりも見据えながら、自社商品の拡充に努めたいという。

「先日、香港を訪問し、ゆめの大地を販売していただいているお客様を中心に視察してきました。世界中の豚肉が品ぞろえされており、その中に埋もれないためにも、より一層のアピールや提案が必要になるなと感じています」。

スピーディに、
そしてその先に見える世界

安心・安全や味、商品開発など、様々な事柄の向上、拡充によって海外へのさらなる進出を期するブランド豚「ゆめの大地」。それらブランド力構築の最後のピースとして出田社長が挙げたのがスピードだ。

「食肉は生鮮食品です。そして生鮮食品は時間が勝負という側面があります。それは味に直結するだけでなく、食肉としての安全にも結びつきます。ですから輸出ではそれがネックにもアドバンテージにもなり得るのです」。

食肉の鮮度は輸送だけではない

自動袋詰めロボット
北海道初の自動袋詰めロボットを備えた部分肉の袋詰めラインを構築。真空包装までのラインを最少人数で運用可能とした。

生鮮食品におけるスピードと聞いて私たちが真っ先に思いつくのは、出荷から店頭に並ぶまでの輸送に関するスピードだが、出田社長はそれだけではないと言う。

「輸送に関するスピードはもちろんですが、我々生産者としてはそれよりも手前、トラックに積み込むまでの時間の短縮に主眼を置いています。すなわち、食肉を加工するスピード、パッケージング、そしてその後の冷却の部分です」と出田社長は言う。
続けて、「今春、竣工した第二工場では、それを極限まで短縮する事に主眼を置きました。そしてとても良い工場が出来たと自負しています」とも教えてくれた。

日高食肉センターでは、最短時間で生産が行われ、加工された食肉は巨大な冷凍庫で即座に冷却される。そして、より新鮮な状態で輸送パートに引き継がれるシステムになっている。

北海道産の「ゆめの大地」を三位一体の運営で世界中に届けたい

「今後さらに、日本産、北海道産である事を含めて『ゆめの大地』を大いにアピールし、世界中のお客様に選んで頂けるブランドに育てて行きたい。そして同時に、日本国内でもより多くの皆様に手に取って頂きたいと考えています」。

食肉を世界中の消費者に届けるためには、クリアしなければならない様々な事柄がある。
食肉としての安心・安全、こだわりの味は「北海道中央牧場」が担い、「日高食肉センター」における熟練した職人によるスピーディかつ丁寧な食肉加工とそれを最大限に活かす最新の設備が生産を担う。そして「エスフーズ」がそれらを統括し、牛肉での知見を存分に注入する。

出田 純治

「年間24万頭の生産頭数を実現する事がひとつの目標です。もちろん、生き物を扱う以上、まったく同じ商品が出来上がるという事はありませんが、より良いものを揃える事にも出来る限りこだわって取り組んでいきたいと考えています」と、出田社長は意気込みを教えてくれた。

出来得ること、考えられる事に積極的に取り組み、クリアして行く。
ブランド豚『ゆめの大地』は、これからも出田社長が牽引する三位一体の運営で世界にチャレンジして行く。