- INTERVIEW
豚と向き合い寄り添う。 -ブランド豚"ゆめの大地"にかける想い
Interviewee
小牛田 満
KOGOTA Mitsuru
千歳農場 農場長
千歳市出身、実家が養豚業を営む。
「子供の頃、夢に豚が出て来て怖かった」と笑顔で語る。
家業や近隣の農業法人に携わったのち、2015年より北海道中央牧場に移り、千歳農場の立ち上げを経て現在に至る。
趣味は温泉旅行と読書。
ブランド豚”ゆめの大地”の生産を手掛ける株式会社北海道中央牧場。
同社は、食品加工大手、エスフーズ株式会社の生産部門として、2010年、北海道に誕生した。その後、赤井川農場を皮切りに北海道各地に農場を新設。千歳農場は3番目に開設された農場だ。現在では日本国内への食肉供給にとどまらず、世界各地への輸出を担う重要な生産拠点に成長している。
「北海道には地域によって特徴のあるブランド豚が各地にありますよね。実は私も他のブランド豚を美味しく頂いた事があるんですよ」と、小牛田農場長は微笑みながら教えてくれた。
続けて、「美味しく食べられるという事は、豚が健康であるという事が基本なんです」と言う。
健康であることが美味しさに繋がる。消費者であれば誰もが望む事だが、それは時によって相反する可能性もある。
けれども、”ゆめの大地”に関しては、それが車の両輪のように作用しているという。
そんな消費者の目線も持ち合わせる小牛田農場長に、どのように美味しく、安心・安全な豚肉を生産しているのか、また、どのように日々豚たちと向き合っているのか、お話を伺ってみた。
農場に求められる役割
ブランド豚”ゆめの大地”は、四つの品種を掛け合わせた独自品種の四元豚だ。
「実は『バークシャー種』が入っていない『三元豚』の方が餌が少なくて済むので安く作る事が出来るんです。ですが、当社はより良い肉質を求めて『バークシャー』を加えた『四元豚』を飼育しています」。
四元豚『ゆめの大地』の特性は、臭みがなく、噛んだ時にサクッと千切れるような、良い脂が入った肉質で、それを作るには「バークシャー」は欠かせないのだと言う。
そして、『ゆめの大地』の持つこれらの特性を伸ばし、かつ、健康な豚を育てるべく飼育、肥育を行うのが農場の役割となる。
Point
四元豚は、母方の2品種と父方の2品種の組み合わせで生まれます。
母方の系統は赤身の肉質が素晴らしい「ランドレース」と、子育て上手な「大ヨークシャー」とを掛け合わせた品種で、父方の系統は極上の脂身を作り出す「デュロック」と、いわゆる「サシ」が上質で脂身に甘みがある「バークシャー」を掛け合わせた品種です。
美味しさの基本は親豚の健康にあり
「まず、親豚が健康で丈夫であるという事が大事です。親豚の状態をきちんと作ることが出来れば、手が掛からなくとも健康な子豚が生まれます。今回は気付けば全然大変じゃなかったね、すんなり行ったね、というのが理想です」との事。
そのためには、個々の親豚の状態を把握しながら、妊娠の時期に応じて餌の量をコントロールする必要があるのだそうだ。
「細ければちょっと多めに食べさせて体力を戻させたり、太すぎたらちょっと減らしたりとか、その辺りのコントロールは個々の状態を観察しながらですね」。
そして出産後の餌の量の判断が最も難しいという。
子豚が乳を飲む時期は餌の量を増やすが、子豚が生まれてからすぐに増やし過ぎると逆に乳の出が悪くなったり、詰まったりする事もあるのだとか。さらに初産の豚は出産後に餌が食べられなくなったりもするそうだ。
「今はスタッフ皆が良く豚を観察して上手にやってくれています」と目を細める。
最新の技術と人の目で育まれる
豚は一回の出産で10頭ほどが生まれるが、体質や性格にはそれぞれ個性があるという。
ただ、規模が大きい農場でもあるので、24時間全てを監視する事は難しい。
「まずは遠隔でチェックできるモニタリングシステムを有効に活用しています」と小牛田農場長。
千歳農場では映像での確認とともに、温度、湿度、二酸化炭素などをモニタリング。
数値で分かる事は数値としてスタッフ間で情報を共有し、常に状態が把握できるようになっている。
「それに加えて、最後にチェックするのはやはり人間の目、そして豚を助けるのは人の手なんです」。
Point
北海道中央農場の畜舎は「ウィンドレス方式」という飼育方法を採用しています。
「ウィンドレス方式」は、一年中豚にとって最適な環境を整えるため、換気や温度、湿度、明かりの調節が自動管理できる畜舎です。
外気が畜舎の中に直接入る事が無いため、野生生物や野鳥はもちろん、病原菌等の侵入も防ぐことが出来、家畜伝染病等の発生を抑制する事が出来ます。
一頭一頭に寄り添い育てるこだわり
養豚における農場の規模は母豚の頭数で表される。千歳農場は約2,300頭。子豚は哺乳中も含めて約13,000頭が飼育される国内でも有数の大規模農場だ。その大規模牧場を運営するには、小牛田農場長を始め22名のスタッフの日々の努力が欠かせない。
そして、その千歳農場で働いているスタッフのうち、半数近くが若い女性で、その多くが養豚未経験というから驚きだ。
小牛田農場長は「未経験者が故に真面目に、そして基本に忠実に作業してくれて、思った以上に良い結果を出してくれています。これだけ規模が大きくなると、個々の技術で何とかなるものでもありません。全員が基本を守る事が大事になってきます」と語る。
それぞれのスタッフは担当する豚が決まっていて、全員で分担して飼育している。 食べた餌の量や飲んだ水の量、排便の状態や元気に活動しているのかなど、実際に目で見て何が必要で何が足りないのかの確認を行っているという。
モニタリングシステムと人の目、全体的な管理はテクノロジーを用い、細かなチェックは人の目で行う事で、豚にとって快適な環境を用意し、「健康=安全=美味しい」を実現している。
「基本に忠実に、日々の様々な仕事が将来どのような結果に繋がるのか、そのイメージを持って仕事をする必要がある」とこだわりも語ってくれた。
小牛田農場長の信念と人を育てるやさしさが今の千歳農場を作り上げたともいえるだろう。
Side story
日夜、豚の管理をする養豚業というと、昔をご存じの方はあまりきれいなイメージを持たれないかもしれません。生き物に休みはありませんので、365日、毎朝早くに起きて、寝床に敷く藁を取り換えたり、餌や水を与えたりと、大変な重労働でした。
ですから、女性が重要なスタッフの一人として働くというのは、なかなか難しかったのです。
現代の養豚も楽になったとまでは言えませんが、デリケートで綺麗好きな豚にとって過ごしやすい環境になるように工夫した結果、働く人にとっても快適に仕事が出来る環境になっています。
ブランド豚”ゆめの大地”が野菜に、そして世界に
今では大規模農場として軌道に乗った千歳農場も、開設当初から順風満帆だったわけではない。
当時は、みんな頑張っていたけれども、一番大変だったのは糞尿の処理と匂いの問題です。これだけ大きな施設でそれが上手く行かないと全く経営できなくなってしまうんです」と話す。
豚を成育する上で必ず出る排泄物。この処理が出来ないと、豚自体の病気のリスクが増す。それを処理する浄化槽、堆肥舎での運営が上手くいかず途方に暮れたのだそうだ。
もう、いろんな人に話を聞きました。有識者に意見を仰いだりして、それでやっと上手く行くようになって」。
試行錯誤の末に確立した糞尿処理の方法。そこで出来上がった堆肥は、今、違った形で実を結びつつある。北海道中央牧場が取り組む、耕畜連携の『循環型農業』だ。
「きちんと発酵した堆肥は手で触っても本当にサラサラで匂いも無いんです。これを利用して『ゆめの大地』ブランドの野菜が作られています」。
農場で作られた完熟堆肥が、提携する農業法人や農家で利用されて野菜が生産されているという。豚から出る排泄物が堆肥化されて畑の養分となる。その養分を吸収して野菜が育つのだ。
そしてさらに今後見込まれるのは、堆肥の海での利用だ。 昨今のニュースでも話題になる「磯焼け」。通常であれば海藻類が繁茂する沿岸部が荒廃し、海藻が採取できなくなるばかりか、そこでの生態系の破壊まで起こっている。この改善に堆肥が役立つ可能性が研究されている。
千歳農場から始まるブランド豚”ゆめの大地”の循環型農業。それはもしかすると、いつしか海にも広がり、世界の環境をも大きく変えてくれるのかもしれない。
Editor
山内 麻美
YAMAUCHI Asami
ライター
北海道オホーツク地方出身。北海道を離れてからその魅力に気づき、家族と共にUターン移住をした道産子。好きな事は自然の中で焼肉をすることと、愛犬とフリスビーで遊ぶこと。北海道のゆっくりとした時の流れのなか、スローライフを送りながら観光スポットやグルメなど、体験を通して魅力をお届けします。